わが国浄水技術の軌跡 高度浄水処理:水質新時代へ


55.クリプトスポリジウム発症
      −埼玉県衛生研究所−

 平成8年5〜6月、埼玉県越生町で発症したクリプトスポリジウムによる集団感染症は、罹患者数の多さ(8,812人:全町の71.4%)とクリプトスポリジウム・オーシストが耐塩素性であることから水道界に衝撃を与えた。多くの機関、関係した人々の協力支援の結果、わが国水道起因初の発症にもかかわらず、わりあい短期間に終息した。しかし、水道には幾つかの厳しい教訓を残した。


 <埼玉県の対応>
 6月に入り、下痢患者が集団的様相を呈し始めた頃、埼玉県衛生部は衛生研究所、坂戸保健所を中心に疫学調査、感染源追求など開始、水道起因であることを特定、給水の停止措置、埼玉県企業局(水道用水供給事業)よりの応援給水など適切な措置が講じられた。
 <厚生省の対応>
 厚生省は、越生町発症を重大視、金子光美摂南大学教授を座長とする検討会を設置、同年10月4日[水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針]を策定、都道府県に通知した。素早い対応であったが、その下地は、八木正一理博(元大阪市水質試験所長)の今日あるを予見して取り組んできた、日本水道協会研究課題[浄水過程の微小動物に関する研究]での諸資料が役に立った。
 <試験法講習>
 対策指針別添(3)試験法は、特別な技術を必要とし、そのため厚生省の意向を受け、(財)水道技術研究センターは全国衛生研究所など職員を対象に実務講習会を開催、講師陣は平田強(麻布大)、井関基弘(大阪市大)、黒木俊郎(神奈川衛研)らで、会場は麻布大であった。また、大都市水道事業体対象としては(社)日本水道協会主催、橋本徳蔵らにより神奈川県水道局水質センターにおいて坂本照正指導で実施した。

   なお、クリプトスポリジウム、ジアルジアなどの汚染実態については平成9年春実施した水道技術研究センターでの水道水源94水系調査、各水道事業体での独自調査など多数箇所で検出された。
 <除去法の研究:膜ろ過>
 (社)水道浄水プロセス協会は、平田強(麻布大)、大垣真一郎(東大)、矢野一好(都衛研)グループに[膜ろ過法のクリプトスポリジウム除去能評価実験]を研究委託、膜ろ過が極めて確実な除去方法であることを立証した。
 <越生町の対応>
 平成10年5月、越生町浄水場に、急速ろ過池の後に膜ろ過(UF膜)を付加した施設が完成、稼働した。

 
−埼玉県衛生研究所−
 衛研スタッフは、越生町下痢患者の便についてO-157など想定される微生物の検索を開始、しかし、すべてが不検出であった。坂戸保健所の調査が進み患者発生分布が全町的となったことから水道が疑わしいこと、蛇口では残留塩素が検出されること、などから耐塩素性微生物に焦点が絞られた。解決へのきっかけは、平成2年神奈川県平塚市の受水槽を原因とする小さな発症例であった。わが国唯一クリプトの権威である大阪市大医学部井関基弘助教授の技術指導と神奈川県水道局水質センター坂本照正課長の協力により、ついに6月18日、顕微鏡下で青リンゴ色に光るクリプトスポリジウムを同定した。

落射蛍光顕微鏡
 

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